脳や脊髄の腫瘍について

脳腫瘍(のうしゅよう)

脳腫瘍は頭蓋内に発生する腫瘍を指します。ほかの部位の腫瘍との大きな違いは、かたい頭蓋骨に囲まれていることです。このために診断がむずかしいばかりではなく、良性腫瘍であっても生命の危険を生じることがあり、また手術も容易ではありません。

腫瘍には大きく分けて良性腫瘍と悪性腫瘍があります。また脳に最初にできた脳原発腫瘍と、肺などから転移してきた転移性腫瘍の別もあります。腫瘍ができる部位によって、下垂体腫瘍、テント上腫瘍、テント下腫瘍などの名もあります。

症状

2~3カ月の経過で徐々に症状が悪化していくことが特徴です。特に早朝の頭痛で気づかれることもまれではありません。頭痛に伴って嘔気、嘔吐も徐々に悪化していきます。脳の局所症状としては視覚異常、視力低下、片まひ、難聴、歩行失調が徐々にあらわれ、進行していきます。末期には意識障害が始まります。経過中にけいれん発作を示すこともしばしばあり、またけいれん発作で発症することもあります。下垂体腫瘍では巨人症、末端肥大症、手根管症候群をみます。

脳腫瘍の特徴は、症状が常に進行するという点です。つまり、一度あらわれた症状は増悪することはあっても自然に軽快消失することはありません。

脳は頭蓋骨に囲まれているために、良性腫瘍であってもそれが大きくなるにつれて脳内の圧が上昇します。頭蓋骨は頸髄に向かう大後頭孔のみが外に開いているため、脳圧が上昇するにつれて脳が下へ押し下げられていきます。最終的には脳幹が骨に押しつぶされて瞳孔が散大し、呼吸が停止します。

脳神経に発生する腫瘍は症状が出やすいので、早く診断されることが多いものです。特に聴神経に発生する聴神経腫瘍は片側の難聴とめまいで始まり、徐々に進行します。ただし3分の1の例で突発性難聴の症状で発症することもあります。

診断

CTやMRIが必須です。病巣が確認できたら血管造影をおこない、どの血管が腫瘍を養っているかを調べます。これは手術するにあたって、大切な情報になります。脳波や各種の内分泌検査が必要になることもあります。

治療

原則として手術をします。ただし、悪性腫瘍が脳内に多数転移している場合は放射線治療や化学療法が中心になります。いっぽうで、下垂体腫瘍ではブロモクリプチンの内服だけで軽快することもあります。特に血管奇形や血管に富んだ腫瘍ではそのまま手術をおこなうと大出血を起こすので、エチルアルコールなどを注入したり、特殊なオイルを注入して動脈を閉塞させて治療することもあります。近年はガンマナイフという特殊な放射線療法も使われるようになりました。

ガンマナイフはガンマ線が一点に焦点を結ぶようにつくられている放射線照射機器です。このため周囲の非腫瘍組織に照射による損傷が少ないのが特徴です。下垂体腫瘍や聴神経腫瘍などで腫瘍が小さい場合に適応となります。

転移性腫瘍では多臓器に広範な転移がある場合は手術の適応になりませんが、脳腫瘍それ自体で生命の危険があり、手術で2~3カ月は延命が期待できる場合は手術をおこないます。良性腫瘍では可能なかぎり正常の組織を残しつつ、摘出します。悪性腫瘍では浸潤が広範囲のことがあり、神経症状を悪化させない範囲で手術し、残った部分に対しては化学療法や放射線療法を加えます。

放射線療法は悪性腫瘍の治療上でもっとも大切です。転移性脳腫瘍では全脳に対して照射します。脳原発の悪性リンパ腫は化学療法のみで十分な治療が可能で、経過も良好です。

脊髄腫瘍(せきずいしゅよう)

脊髄にはいろいろな腫瘍が発生します。脊髄内の腫瘍、脊髄外で脊椎硬膜内の腫瘍、脊椎硬膜外の腫瘍があります。

症状

症状は脳腫瘍と同様に徐々に発症し、つねに悪化していく特徴があります。

おもな症状は両下肢の運動まひ、感覚障害、膀胱直腸障害、あるいは背部痛などです。症状が軽いうちは、たとえば右足の筋力低下と左足の温度感覚や痛覚のにぶさがあらわれることがあります。このように運動まひと温痛覚の障害が反対側に出るのが脊髄障害の大きな特徴です。

脊椎への悪性腫瘍の転移は頻度の高いものです。特に肺がん、乳がん、胃がん、前立腺がん、悪性黒色腫などをしばしばみます。これら悪性腫瘍の転移では、発症して1~2日で両下肢の完全まひ、膀胱直腸障害を生じることが多く、治療が困難です。

検査・診断

脊椎の単純撮影、脊髄のCTやMRI、髄液の検査、筋電図が重要です。

治療

脊髄内の腫瘍は脳神経外科、脊髄外の腫瘍は整形外科が手術を担当します。

脊髄空洞症(せきずいくうどうしょう)

原因

原因はまだよくわかっていませんが、先天的に素地があって生じた脊髄中心部(灰白質内)に空洞ができる病気で、しばしば骨・関節の異常も合併します。

症状

どの年齢にも出現しますが、20~30歳ごろに発症に気づくことが多く、慢性に症状が進みます。頸髄(けいずい)から胸髄上部に病巣ができることが多いのですが、時に腰髄(時に延髄にも)にみられます。

多くは左右不対称の筋萎縮や温痛覚のみの障害(触覚や深部感覚は保たれているか軽い)、排尿障害、下肢のつっぱりなどが、病変の高さに応じて出現します。

検査としては、MRIが診断上、もっとも有力です。

治療

病巣の位置にX線照射をおこなうか、可能な場合は手術的に空洞を切開して内容を排除したり、脊髄周囲の髄液腔との間にバイパスをつくったりします。

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